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 第 四 話

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  「はあっ!」

サーベルの切っ先が迫る。
シュッ!と空を切る音がして、対象を見失った男の踏み込み足がよろめいた。

  「なっ!・・・き、消えた!?」
  「おい!上だ!」

私は男の突きをギリギリでかわした後で、片足の踏み込みで上空へ跳び上がった。
朱羅姫の身体能力は常人のそれを大きく上回る。
跳んだ後、軒先の壁付近を数秒滑空し、10メートルほど離れた場所に降り立った。

  「逃がすかっ!!」

そして再び五人の男達が迷いも無く迫る。

  「はああああっ!!」

私もまた、声を荒げて男達に向かっていった。
空中を移動して距離を取ったのは逃げ出すためではない。
一人一人を確実に叩き潰すため、だ。
闘う事。勝つ事。目の前の危険を打破する事。

何の抵抗も無くこんな考え方に至る自分、数日前までは夢にも思わなかった。
あの頃の私がこんな状況に追いやられたら、きっとへたり込んで泣くしかなかった。
そう。私は変わったのだ。
血と憎しみ、そして闘いへの衝動。
目の前の障壁は、この両刃の二刀で蹴散らすのみ!


ザッザッ・・・!!ガキッ!カン!カンッ!ドスッ!
男達と私の雪を蹴り上げる音、そして耳障りな鉄の擦れる音だけが、木霊した。
その様子を見ていたのは、一匹のミミズクと、空の上で霞の隙間から覗き込む、十六夜の月だけだった。    


数刻後。

  「はぁ・・・はぁ・・・」

ここは何処とも知れぬ、森の中。
樺桜の街中とは違って、根雪となった白い絨毯が、辺り一帯に敷き詰められていた。
私は寒さも傷の痛みも忘れ、一本の杉の木に背中を預け、息を切らしていた。
男達は巻けただろうか・・・。何人、殺してしまったんだろうか・・・。
二本の刀の刃を確認すると、赤くぬめった液体が垂れていた。  

無我夢中で自分を守ろうと思った。
美城暁自身がそう思ったのか。
私の中に眠るもう一人の人格、朱羅姫がそう思ったのか。それは分からない。
けど・・・ここでは死ねない。私は・・・負けるわけにはいかないんだ。


苦しさと寒さで破裂しそうな肺と、重たい足に鞭を打つと、私は再び歩き出した。
暗く、月明かりさえ届かぬ、深い闇の森の中へと・・・。    



美城暁ショートエピソード「十六夜のノスタルジア」 完
 

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