とろけるような甘い香りの漂う店内で、
ウィンドウの天井からライトアップされた色彩豊かな菓子達が、こちらを誘っていた。
「俺、これにしようかな」
「それは、ドボストルテだね〜。ヒロ、アンタなかなか目の付け所が良いねぇ」
「ハンガリー生まれのバターケーキか・・・。じゃあ俺はこっちのザッハトルテにするか」
傍らの少年・守屋真灯路君(私はヒロ君と呼んでいる)とその友人・山岡俊文君、
加えて私の友人・上総葉子が、嬉々として獲物を選別していた。
学校の帰り道だった。
ちょうど学年末の試験が終了し、互いの成果を労おうと、 噂の洋菓子店まで立ち寄ったというわけだ。
「アカ。もうみんな決まったよ〜」
葉子が語りかける。
同行者三名は既に会計を済ませて、私が選ぶのを待っていた。
「あ、うん。じゃあ私はこれにしようかな ・・・ママの分も買っておこう」
私は「スノーツ」と書かれた白い雪のような菓子を選んだ。
カシューナッツを散りばめたホワイトカスタードケーキ、と注釈されていた。
店内には小さな喫茶コーナーが設けられており、買ったお菓子をそのまま楽しめるようになっていた。
私達のように考えている試験後の学生は多かったらしく、座席はほぼ全て埋まっていた。
「アカ姉〜こっち、空いてるよ!ちょうど4人分!」
ヒロ君の声に誘われ、ちょうど空いたばかりの窓際の席に駆け足で向かった。
両手のトレイには今選んだばかりのお菓子と、
白い湯気が立ち込めるミルクティーが大事に置かれている。
「さて・・・みんな今日の戦績はどんなもん?」
「俺はいつも通り。数学だけ納得いかなかった」
葉子と山岡君が早速、テスト談義に花を咲かせ始めた。
とは言っても、私と葉子、ヒロ君と山岡君では学年が一つ違う。 私達は高校二年生、彼らは一つ下の高校一年生だ。
ヒロ君と私が元々幼なじみというツテがあり、こうして四人でいつも仲良くやっていた。
「数学?なんで?」
「前もって発表されてた試験範囲と違う所が出題されたんですよ。俺もアレは正直辛かったなぁ」
葉子の質問に対し、ヒロ君が渋い顔で答えた。
「テストの後でハゲオに問い詰めてみたら、『予定は未定だ』なんてお決まりの言い訳と来たもんさ。
そのせいで、俺のオール90点以上への道が、閉ざされつつある・・・」
山岡君はそう言うと、熱いはずのコーヒーをやけ酒のように一気に飲み干した。
ちなみにハゲオとは、少しオデコが広がり始めた数学教師・萩尾先生の事である。 |