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ラジオ用番外編
 


 第 ニ 話

# 1-1# 1-2 | # 2-1# 2-2 | # 3-1# 3-2 | # 4-1# 4-2
残り雪がそこかしこに残る街路。
煉瓦で囲いを作った花壇が等間隔で設けられ、 花壇の中心にはそれぞれ一本ずつ白樺の木が立っていた。
 
ここは樺桜市の中でも少し名の知れた繁華街の通り。
昼間は、晩御飯の食材を買い揃える主婦や、帰路に寄り道をする学生達、 夕刻にかけては、
疲れを西日の暖かさと一杯のグラスで癒すサラリーマンで、いつも賑わっている。
だが、そんな人々の喧騒も、今はない。  



真夜中の二時過ぎ。
ひと気はおろか、この世に存在する全ての物が、動きを止めてしまったかのような、そんな静寂の時間。
暗闇の空から振り注ぐ冷気が日中の温もりを奪い取り、
ゴミ箱に入り損ねた空き缶だけが、カラカラと無秩序に動いていた。  

メインストリートから少し横道に逸れた所に、一風変わった建物があった。
半円アーチ型の窓が横に並んだ赤いマンサード屋根と、白い壁のバロック調建築。
少し中世ヨーロッパを思わせるその建物には、 arc-en-ciel fee(虹色の妖精)と書かれた看板がかけられていた。
最近地元の女子高生に評判という、開店仕立ての洋菓子店である。
その店の脇、猫の抜け道くらいの小道で、わずかな息遣いが聞こえた。

  「はぁ・・・はぁ・・・」

かすれた声は少女のものだった。
今にも魂が抜け落ちてしまうかのように弱々しく、か細く、声を殺すように息をしていた。
それは美城暁だった。
先ほどまで警察達に追われていた少女だ。
追っ手を振り切るため、息を潜め物陰に隠れている、という事なのだろう。

額から一滴の汗が零れ落ちた。辛そうに目を見開く。
深夜の冷気が瞼に沁みる。顔を歪ませ、再び目をすぼめた。
 

  「・・・おい!そっちはどうだ!?」

「いや、いないな。民家に逃げ込まれると厄介だが・・・」
「おいおい、奴は朱羅姫だぞ?そんな事は無意味と理解してるだろ」  


耳慣れない声が聞こえてきた。一瞬ビクッと身体が強張る。
声を聞く限り、さっきまでの警察達とは違う面子のようだった。
そっと首を伸ばし、辺りの様子を伺う。  


・・・姿はない。
声の響いた感じからして、近くではなかったようだ。
暁はホッと胸を撫で下ろし、その場にへたり込んだ。
 

【1】 | 【2】 写真協力:「木の工房るか」様

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