両の手に一本ずつ、計二本である。
両刀とも鞘に納まっているので刃を拝む事は出来ないが、
それらは明らかに日本の古来から存在する武器・日本刀だった。
「あっちだ!D班に連絡して回り込め!」
後方でしゃがれ声が響いた。再び初老の男が部下達に指示を出したのだ。
ダダッと複数の足音が迫ってくる。
暁はチッと舌打ちをすると、走る速度を速めた。
タタタタッ・・・。短いスカートから覗かせる、淡く引き締まった太ももが、
まるで新緑の草原を駆け巡る一頭の駿馬のように、しなやかに筋肉を躍動させていた。
「くっ・・・!なんですかあの速さは!!あれでは到底追いつけませんよ!」
汗を拭い息を切らせる部下達がそう愚痴を垂れた。
「アレは・・・だからな」
初老の男が、自分にしか聞こえないくらいの小声で言い捨てた。
「え?何か言いましたか?」
「いや・・・」
焦る部下達に比べ、男の様子は落ち着いたものである。
まるで、こういった状況を何度も経験してきたかのようだった。
「くそっ・・・あんなの・・・無理です!」
警察達は運動能力でただの女子学生に歯が立たない事に苛立ちを覚え、
それはすぐに諦めへと変わっていた。
「確かにアレは元々、ワシらの手に負える代物ではない。
ここら辺が潮時かもしれんな」
「え?じゃあどうするんですか?このまま逃がすんですか?」
「ワシからホワイト・レイヴンに連絡しておこう。お前らは待機所に戻れ」
「わ、わかりました・・・」
部下の警察達はこちらに一礼すると、トボトボと今来た道を戻っていった。
初老の男はその場に立ち尽くし、まっすぐに前を見据えた。
美城暁が消えた暗がりの向こう。もう足音も聞こえない。
そして一人つぶやいた。
「朱羅姫・・・災いの火種・・・か」
− 第一話 終 − |