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『智一・美樹のラジオビッグバン』(日曜日:25:30〜26:00 / 文化放送) の番組内で、関智一さんが朗読しているものをテキストにまとめたものです。 |
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シュラキ外伝 「木漏れ日の神子(かみこ)」
9月9日放送分 : 第 十五 話 |
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「伽乃様!お帰りなさいませ!」
そこは深い森に囲まれた古びた神社だった。
あの後、伽乃と私は幾度となく陸軍の追っ手に狙われ、その度伽乃の人智を超えた身体能力が
苔色の屈強な男達を蹴散らした。だが奴らの追跡は終わらなかった。
私達はその場に留まる事を諦め、帝都を離れた。
数回電車を乗り継ぎ山道を歩き、数日後、この村へとたどり着いたのだった。
「ここがお前のふるさとなのか?」
「何もない所じゃ。山間の寒村にある古びた社じゃからのう」
「伽乃様、今まで一体どちらに?」
「後から話すわ、今はまず休ませよ」
伽乃は自分と同じく巫女装束を身に纏った娘を手で追い払うと、奥まった部屋へ私を連れ込んだ。
「こ、ここは…」
「朧神と朱羅姫に纏わる伝承が綴られた古書が納められている。
主のような研究者にとって、喉から手が出るほど欲しいものばかりじゃろうな」
そこは檜の香りが匂い立つ、古びた書庫だった。
置かれた書籍の数々は、研究機関で手にしたどの資料よりも、詳細で真実味を帯びたものであった。
だが、私の興味は別にあった。
「伽乃…お前、身体は大丈夫なのか?」
ここに辿り付くまでも、追っ手との衝突が何度かあった。
鬼神の如き強さを以って男達を圧倒する伽乃だったが、
闘いが終わると必ず発作的に咳き込み、そして口元を朱色に染めた。
私の気のせいだろうか?その頻度が段々と高くなっている気がする。
「欲しい物があれば、持っていけ。ここも早々に出るぞ」
「えっ?ここに留まるんじゃないのか?お前の家だろう?」
「ここは既に割れてしまっている。直にまた現れるじゃろう」
「そんな…」
「朱羅姫は災いの種。関わった者を不幸にする。
それゆえに…主に打ち明ける事を拒んだのじゃ」
伽乃はうつろな瞳をして、寂しそうに呟いた。長い睫毛が下を向いていた。
だが…それがきっかけで、私は新たな決意をする事になる。 |
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